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恋文はお月様から [жжж]


今年もまた、月が僕らを眺めてる




最近の彼女は随分とキャスケット帽がお気に入りらしい。
赤茶を貴重にしたその帽子は、つい最近彼女自身が嬉々として買ってきたものだった。
買ってきたその日は、此方が暇そうにしている度に肩をつついて「みてっ」とその帽子を見せ付けられた。
(正直言えばしつこかったくらいだ)(口には出さなかったけれど)
数日経った今でもお気に入りであることは変わらず、四六時中頭に被っている始末。槐に怒られたせいか、ご飯の最中は被らなくなったけれど。
出かける時はもちろん、食事以外はかなりの確立で被るほどお気に入りのその帽子。
それをほんのちょっとやそっとじゃ取る筈もなく、現在進行形でその頭にはキャスケットがあった。
長い耳を気にせず被っているせいか、両脇からは無理矢理畳まれた耳が覗く。そのせいか聞こえが悪いらしい。

「千代ってば、聞こえてんの?」
「え、あっ、いの、く、とっちゃ、やだっ」
「だって聞こえてないんでしょ?僕にしつれーじゃんか」

千代の頭から掠め取ったキャスケット帽を人差し指に引っ掛けながら、くるくると回す。すぐに反応した千代は帽子に手を伸ばすけれど、届かないように腕を伸ばしてやった。ただでさえ身長差があるのに、僕の頭よりも上となれば千代の手は届かなくなる。
さっきから呼んでるのに。そう加えると千代は言い返す言葉が見つからないのか、小さい子がするみたくふくれて押し黙った。
それでも帽子を返せと開いた形で差し出される手には正直呆れる。そんなにお気に入りなんだ、これ。

「槐が、お団子作るけど一緒にやるかーだって」
「おだん、ご?」
「手伝ってきたら?愛杁もやるって言ってたけど」
「千代、も、おてつ、だい、する!」「はいはい」

槐が目の前にいるわけでもないのに、千代は勢い良く挙手をしてみせた。
そしてぴょんと一回飛び上がると、簡単に僕の手から帽子を掠め取り返す。変に俊敏だよね、と感心しながら千代の後姿を眺めていた。
ぱたぱたとスリッパの音を響かせて、彼女は廊下を走っていく。






今日は十五夜。窓の外には怖いくらいに真ん丸で綺麗な月が、黒いマントにぽっかりと穴を開けていた。覗き込むと別の世界が見つかりそうだった。
何故かイベントというイベントを率先して楽しむ槐のお陰で、テーブルの上には今年も月見団子が準備されている。
形が無駄に綺麗で一口サイズなのは、きっと槐が作ったんだろう。
控えめな大きさの、端にちょこんと添えられたのは愛杁あたりだろうか。
団子が乗った皿の中では一番大きくて、少しだけ歪な形は確実に千代だ。あの子らしいと思う。
槐が作ったと思われる団子は避けて、やけに小さい団子をひとつつまんだ。そのまま口に放り込むと、しつこくない甘さが舌へ広がっていく。

「あ、一人で、たべ、ちゃ、ダメ、だよ?」
「残念、もうひとつ食べちゃったー」「ぇえ!」
「お前なぁ、手伝いもしないくせに偉そうに食ってんなよ」
「いの兄っ!お行儀悪い、ですっ」「ちぇっ愛杁まで怒らなくていいでしょ?」

ぱたぱたと、昼間に聞いたスリッパの音が蘇る。次いで鼓膜へ届いたのは、昼間と同じ声と、出来れば聞かなくても良い声と、やけに慌てた従妹の声だった。
飲み込んだ団子はどうしようもないからと、槐の軽い説教を流す。微かに聞こえた溜息は聞かないことにした。

「ねえそんなことよりさあ、お月様、綺麗だよ」
「わあ、い!あーちゃ、みに、いこっ」
「え、あ、千代さ、上に何か着ないと寒い、です、よっ」

窓の外からでも月なんていくらでも見えるけれど、あえてそれは言わないでいれば彼女は嬉しそうに外へと向かう。
それを追いかける従妹は、二人分の上着を抱えて慌てて千代の後を追っていた。
なんだか5歳くらいの年の差がないように思えて、思わず小さく笑う。槐も、「二人とも楽しそうで何よりだ」なんて、爺くさく笑っていた。
月はまだ、空に丸い穴をあけている。


 *


今日は十五夜ですね!皆さんの地域は晴れていますでしょうか?
咲白の生息地では晴れまして、見事なお月様がきんきらきんであります。きれーですねえ。

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千代の島もお月見仕様!
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